初めて入った先生の家は、以外にも木造立ての古い一軒家だった。
もっと若い教師らしくアパートとかだと思ってた。
「…以外?」
着替えてお茶を持ってきた伏見先生が尋ねてきた。
「……っえ!?」
「いや、そんなに部屋の中じろじろ見られたら分かるよ」
……びっくりした。
心の中を読まれたのかと思った。
「…伏見先生、何であんなとこに居たんですか?」
「なんで、って…家に帰る途中で、楠樹君の後をつけている人を見たから車を降りたんだけど」
うわ。
「あ、ありがとうございます…」
何であの薄暗さで私だと分かったんだ?
「先生」
「ん?」
「何で私だって分かったんですか?」
「………」
あぁ、何馬鹿な事を訊いているんだ私は。
思わず顔を下げて、俯いた。
不審者に後をつけられている生徒を助けたら偶々それが私だっただけじゃないか。
……“私だから”助けた訳じゃない。
………。
…………。
ちょっと、いい加減返事をしてくれ。
顔を上げると真っ赤に熟れた林檎の様な顔の伏見先生を目が合った。
「せ、せんせい…?」
「あー…、あー…あれはだなぁ……」
それっきり、黙り込んでしまった。
「気付いたのは、…楠樹君が気になったからだ」
伏見先生が口を開いたのは、それから数分が過ぎてからだ。
それも、さっきと変わらない赤い顔で、私と目を合わせないようにして。
気まずい空気はとりあえず去ったが、今度は違う気まずさが漂った。
「は、ぁ…ありがとう、ございます…?」
とりあえずお礼を言っといたが、もしかしてこれって結構大事な事先生言ってる!?
……『楠樹が気になったからだ』って、何それ。
まるで、
まるで、「好きです」って言ってるようなもんじゃないの?
「先生…それ、どういう意味ですか?」
あぁ、どうしてこう私はせっかちで、後の事を考えない言動をしてしまうのだろう。
「………」
ほら、また黙ってしまった。
「……伏見先生?」
私の口が自然と開いた。
「先生は、私の事、大勢いる生徒の中の1人だと思ってるでしょうけど…」
何故だかは知らないが、
「……私は、何でか、先生が好きですよ」
もう、後悔はできない。
◆
「…先生、お早うございます」
「ぁ、うん……」
結局昨日は、私の告白の後2人して黙り込み、私は一室を借りて一晩を過ごし、朝が来た。
本当に気まずくて、貰った朝ごはんもそこそこに、私は家を出ようとしていた。
「お世話になりました。もう学校行きますね」
そう言って、玄関を出ようとすると、「楠樹君」と呼び止められた。
「……はい?」
「……ぼくもだ、たぶん…」
長身を折り曲げて、耳元で囁かれた。
「…たぶん、って何ですか、それ」
あぁ、
本当に、私はしてはいけない事をしでかした。
でも、
それでも良いと思ってしまった。
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