『…ふ、伏見先生っ!あ、飽きられるかもっ、しれないけどっ!150日、私のことをずっと、ずっと、待ってて、下さい!』
いきなり声を掛けられて、何かと思ったらこの言葉だ。
走ったせいか、緊張のせいか、顔がほんのり上気して赤い。
「ひゃ、150日!?え、え?!」
一瞬何の事だか分からず、素っ頓狂な声を上げてしまった。恥ずかしい。
「じ、事情話すの忘れてたあああ!!!」
そう、叫んだ彼女にようやく何の事だか話してもらえた。
「……君たちは」
なんという事を。
「だ、だって!そうやって思っていれば、少しは楽になるでしょ!?」
「ま、まぁ…そうだけど」
屋上を吹き抜ける風に有佐の髪がなびく。
ああ、長くて綺麗な髪だな。
無意識にカフェオレ色のそれに手を伸ばす。
「っ!!?せ、先生っ?」
驚いた顔でこっちを見てくる丸い瞳。こちらは濃いハシバミ色だ。
ああ、本当に、綺麗な子だな。
こんなに綺麗で、良い子の未来を、僕は潰してしまうのではないのだろうか?
それで、このままで、良いのだろうか?
そう思った。
◆
伏見先生に髪の毛を触られて驚いた。あれ、禁忌を破っちゃった感じ?
あ。先生が異世界に飛んでいる…?
「せ、せんせいっ!!」
「ぁ、ご、ごめんっ」
ハッとした顔で手を離された。
………別にそのままでも良かったんだけどな。
「先生」
1歩、踏み出す。
「今、私は先生とここにいられて幸せです。さっきまで私は先生に会えなくて悲しかったです」
だから。
「先生といつまでも一緒にいられるのなら、いつまででも、待っていられるんです」
ほら、笑おう。笑おうよ、私。
「……っ、だ、だからっ…!…っひ、ひゃ、ひゃくごじゅうにちっ、わ、私のこと、っ!き、きらいに、ならないで…っく、だ、さっ……ぃ!!」
どうしよう。
涙が止まらない。
嫌われたくないのなら、こんな重い涙など、見せてはいけないのに。
「…大丈夫」
「…っせ、せんせ…っ!?」
「僕はきっと、有佐が思ってるよりも、有佐が好きだよ」
ぎゅっ、と腕に力が込められた。痛い位だ。
「だから、そんなに無理しなくても良いんだ。有佐はここでちゃんと勉強して、行きたい大学に進学して。僕の事なんかで悩まなくていい。ずっと、有佐が僕を嫌うまでずっと、君を待ってるから」
温かいな。お日様みたいに、温かい。
不安が全て洗い流されてしまった。
「…僕って、結構一途なんだよ?」
にっこりと微笑む、愛しい顔が傍にある。
「あ、りがとう…ございます……」
この笑顔が、1番安心する。
だってほら、やっと笑えた。
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