どうやら私はしてはいけない事をしでかしてしまったようだ。
いつも通りの退屈で、つまらない授業をやり過ごし、さっさと教室から出ようとした。
これもまた、いつもと変わらない日常。
ただ、今日は教室の扉付近で呼び止められてしまった。
「楠樹、君…?ちょっと良いかな?」
「はい?」
声をかけて来たのは物理教師の伏見先生だ。嫌な予感。
「この間の物理のテスト、赤点だったでしょ?だから補習」
帰りたい。物凄く帰りたい。
私――楠樹有佐は破滅的なほど、物理が大の苦手なんだ!
「伏見先生…帰りたいです、私」
「んー…、帰るのは補習やってからにしようか」
「うぅ……」
抵抗したら制服の裾を引っ張られてしまった。手を取らないのは教師と生徒という関係を気にしてだからだろうか。
「はい、じゃあこのプリントやって。終わったら帰って良いから」
私の他にも何人か生徒が居て、皆一様にプリントに向かっていた。
「はぁ……」
仕方ない。やるか。
「う」
1問、2問と何とか答えられたがどんどん難しくなってきた。
「ん?分からない?」
後ろを歩いていた伏見先生がこっちに来た。
「あ~、これは―――」
私の頭の上から手を伸ばしてきて、プリントを指して説明してくれた。が、何だか緊張して頭に入ってこない。
「……っ」
こんな一教師が何だというのだ。
恋をした、と一瞬でも考えた自分が嫌になった。
「皆、気を付けて帰ってね。絶対家が近い人と帰るんだよ~」
小学生に言うような事を高校生に向かって言ってきた。
最近不審者が多いようで、集団下校しろと学校側が五月蝿い。
「あ、有佐だ」
「…昴、待ってたの?」
昇降口を出ると幼馴染みの葛城昴が文庫本を持って立っていた。
私の集団下校相手は、この昴だ。
「いや、補習だって聞いたから帰ろうとしたんだけど、先生が女の子を置いてくなって…」
「誰よ。そんなこと言ったの」
「伏見先生」
何で私の事をそこまで見ている。
「有佐…?」
「……なによ」
「顔、真っ赤だけど、大丈夫?」
あぁ、本当に、本当らしい。
「…何でもない。大丈夫。帰ろう」
まったく、これだから嫌なんだ。
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