「美端ちゃぁぁぁぁぁんっ」
「げ」
爽やかな程に青く晴れた朝だ。
いつもなら面倒だと感じる登校も、この空を見ていると楽しくなって来ていた。
…そんな、晴れやかな気分が1番聞きたくない声で打ち砕かれるまでは。
「いやぁ、いつもよりちょっと早く家を出ただけで美端ちゃんに逢えるなんてっ!なんという神のお導き!!」
私の目の前に走り寄って来てべらべらと捲し立ているのは、同じクラスの紺野すぐるだ。何故か私のストーカーをしている。
あ、なんか目が危ない色してきた。このままだと手とか握りだしかねない。
ちょ、マジ止めて下さい。
「わ、私急いでるからっ!」
なんとかしてこのストーカーから逃げないと!
勢いを付けて走り出した。
それがいけなかったのか、足を縺れさせて盛大に転け…なかった。
大きな手に肩を支えられる。なんだこの少女漫画的展開とかつっこんでる暇は無い。
奴が来る。
「ちょ、大丈夫かよ」
「み、三木くん!ありがとっ!じゃっ!!」
「え?え、ちょ、ま、えぇぇぇ!!?」
ダッシュ。今度は転ばなかった。
「え、なに紺野。なんか怖いんですけどぉぉぉっ!?」
さらば、三木信治。お前の死は無駄にしない。
勢い良く昇降口に飛び込むと、祐紀と霞が今まさに靴を脱ごうとしているところだった。
「ど、どうしたの!?そんなに急いでっ」
霞が大きい目をさらに丸くして訊いてくる。
「ちょっと朝の爽やかさをぶち壊すような緊急事態があってね」
「あぁ~、紺野くん?」
対象的に祐紀は長い髪を揺らすだけだ。
「当たり。三木くんに押し付けて来た」
「…三木、どんまい」
「三木くん今日登校できるかな…」
紺野すぐるがクラスでどう見られているかが分かった。
「お~い、三木は無断欠席かぁ?」
朝のホームルームが始まっても三木くんは来なかったらしい。
「お前知らない?」
廊下を通った時に丹羽先生に訊かれたが、まさかストーカーに押し付けて来たとは言えない。
◆
「みきく~ん?」
にこにこと笑いながら近付いて来るが、紺野が笑ってないのは一目瞭然だった。
元がイケメンなだけに、不必要なまでの凄みがあって怖い。
「な、なんだよ紺野。こえぇよ」
こいつが怒っている理由は分かっている。
そしてそれが不可抗力で理不尽な事も。
「良いなぁ、美端ちゃんに抱き付かれて」
言っておくが、支えただけで抱き付かれてはいない。絶対に。
急いで弁明しようと思ったが、遅かった。
「ちょっと待て、…っひ」
こいつ、目がヤバイ。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に跳ねられて死んでしまえ。ってね」
◆
「あ、三木からメール来た。……はぁ?」
杉山くんが怪訝な顔をした。
「杉山ぁ、三木どうしたって?」
「馬に跳ねられたらか遅刻するみたいっすよー」
「なんじゃそりゃ」
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