なんなんだ!
朝起きた時、いや昨日の放課後からもんもんとしていた。
原因は昨日の放課後やふみさんといちゃついていた、あの戌居とかいう男だ。
愛子に惚れているのは気に食わないが、その一途な想いは認めていたというのに・・・!
やふみさんは否定していたが、確実にあの状況は抱き合ってたろ。
「あー!もう信じらんないっ!!」
「そうよねぇ」
「!?」
急に話し掛けられて顔を上げると、愛子がいた。え、私声に出してた!?
「今日のテストでしょ?私今回自信ないのよね・・・」
あ、なんだそっちか。
・・・ん?テスト?
「今日なの!?」
「そうじゃないの?」
いや、待て南雲空。よぉく思い出すんだ。
確か昨日の連絡では・・・・・・。
「・・・思い出しました」
ちくしょう、泣きてぇ。
「えぇと、定期模試の返却しますねぇ」
楠木先生が紙束を抱えて入ってきた。その様は愛らしいが、テストの束だと思うと憂鬱になる。
これもそれも戌居の所為だ!色んな女の子にへらへらしやがって!!
やふみさんか愛子か、どっちかにしろ!
そんな事を考えていたら、いつの間にか順番がきていたらしい。
「南雲さーん、早く来ないと点数公開しますよぉ」
「止めてっ!あーちゃん先生それだけは止めて!!」
とりあえず呪うのを止めて走った。
◆
「大分慣れたか?」
訊きながらコーヒーを淹れてくれた。
「うん。生徒さん達も優しいし、友達みたいで楽しい」
「良かった」
に、と安心したように笑う彼を見ているとこっちまで笑顔になれる。
「でも、本当、新太郎と同じ大学になるとは思ってなかったなぁ」
「こっちもだよ。異動先に有佐がいてびっくりした」
「へへ、うんめーですよ」
照れ隠しに彼の肩に額を押し付けた。
◆
「・・・な、なんだよ」
「なんだよ、じゃねぇっぺ!!」
「なんで茨城弁?」
放火後、戌居を校舎裏に呼び寄せた。
案の定結果が悲惨だったので、八つ当たりと、ついでにやふみさんと愛子のどっちを選ぶのかはっきりしてもらうためだ。
「アンタさぁ、結局のところどうなの?やふみさんと愛子のどっちが好きなの?」
「はぁ!?何でそこでやふみが出てくんだよ!」
「保健室の時の事はどうなるのよ!?」
「う・・・」
口を閉じ、目が泳いでいる。どうすんだよオラはっきりせんかい。
「あ、あれはやふみが勝手に・・・」
ようやく口を開いたかと思えばそれだ。
明らかにあの体制は抱き合っていた。やふみさんが抱き付いていたのではなく。
「あたいの観察力舐めんじゃねぇぞ!!!」
「なんであたい?」
「いちいちつっこまんでよろしい!」
◆
「せ、せんせいっ!?」
「あぁ、ごめんごめん。つい」
額にまだ唇の感触が残っている。
急いで周りに誰もいないか確認した。
「もう、学校ではいちゃつかないって言ったの先生でしょ!?」
「こら」
「いたっ」
ぺち、と額を叩かれた。そんなに痛くないけど反応してしまう。
「先生じゃなくて、新太郎」
「あ」
びっくりして以前みたいに呼んでしまっていた。
「・・・・・・しんたろー」
「良い子だ」
◆
「とにかく!あんたがやふみさんといちゃつくって言うんなら、愛子は絶対に渡さないから!!」
「っな!べ、別に俺はやふみの事好きじゃねぇし!愛子さん一筋だし!!」
「じゃあやふみさんが告ってきたら、即振るわけ!?」
意地悪な事言っているのは分かっている。
愛子もやふみさんも戌居も、誰が誰を選ぼうと関係は無い。
ただ、愛子に傷付いて欲しくないだけだ。
「・・・ね、答えられないでしょ?考えてよ、ちゃんと、本当に愛子が好きなのか」
お願いだから、愛子を選ぶと言うのなら、裏切らないで。
「・・・やふみが告白してきたら、正直、どう答えるのか分からない」
「っなんで・・・!」
「でも、今、俺は本気で愛子さんが好きだよ。・・・信じてくれないかな?」
その目は、滅多に見ない程真剣だった。
だから、その目に応えてあげよう。
「・・・暫くは、ちょっとだけ、信じてあげる」
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