私は今体育館倉庫で掃除をしている。
何故か?先程の授業で伏見先生に怒られたからだ。
普段ならば嫌がっただろうに、今回私は心なしか嬉しがっている。
原因は・・・認めたくはないが、きっと彦丸君が居るからなのだろう。
体育館から聞こえていたボールの音も、もう聞こえない。
「大学生にもなって、居残り掃除とかめんどくね?」
「めんどい、めんどい」
話しかけられても今更ドキドキなんてしない。する筈がない。
それなのに上手く舌が回らず、目線も合わせられない。
ヤバイ。ふたりきりってこんなにキツいんだ・・・。
気を紛らわすかのように無心で床を掃いた。
―――ッガ
「っやふみ!」
「え・・・」
急に腕を引かれた。頬が彦丸君の胸に当たる。
「・・・痛っ」
「っち、・・・待ってろ、今どかすから」
足の上に跳び箱が乗っていた。どうやら箒が当たって崩れたみたいだ。
――彼が引っ張ってくれなかったら、下敷きになっていた。
今更ながら怖くなった。
「あ、ありがと・・・」
「ん。・・・おら、立て」
「ごめん、無理」
「は?」
「捻挫した・・・痛い」
はぁ・・・と溜息を吐かれた。う、うるさい!!
「保健室行くぞ」
「う、うん」
◆
「マジかよ・・・」
保健室の扉に『退室中』の札が掛かっていた。
「あ、でも開いてるよ」
「ホントだ」
「うっわぁ、腫れてんなあ」
やふみの足首は、ギャクかと思うほどに腫れていた。それはもうパンパンに。
湿布、湿布・・・と。あった。
「自分で貼れるか?」
「も、もちろん!」
答えたやふみの顔がほんのり赤らんでいたのは、男に足を触られる事への羞恥心だと思う事にしよう。
「掃除、どうしようか?」
「良いんじゃね?そんな見られる所じゃないし、大体終わってたろ」
「そだよね」
やふみは足に負担をかけないように、長椅子に寝転がっていて、俺はその目の前の椅子に座っているわけだが、この体勢は健全な青少年としてはかなりキツい。
なんていうか、そう・・・アレだ。
「歩けそうか?」
もう日も暮れそうだ。多少痛くても帰った方がこいつの足にも良いだろう。
具合を確かめようとして、なんともなしに足に触ってしまった。
「・・・っいった!」
「あ、ごめ」
ていうかもうちょっと可愛らしい悲鳴はなかったのか?今ちょっと低い声だったぞ。
とか思ったんだが、顔を上げると涙目でこっちを見ているやふみがいて。
「・・・痛い」
「ごめんなさい」
「ぎゅ・・・って」
「え?」
コイツ今なんて言った?今ありえない事言わなかったか!?
「ぎゅってしてよぉ」
「お前熱ないか」
「ないもん!」
いやあるだろう。
顔だって赤いし、目だってとろんとしている。額に手を当てると案の定熱い。
なんだこいつ。捻挫して、熱出して・・・挙句に甘えだして。
「ほらぁ!」
ん。と両手を突き出してくる姿は、どことなく、不覚にも可愛いと思えて、
「はいはい」
「やったー」
初めて抱きしめた身体は、細くてどことなく頼りなかった。
でも、その甘い匂いに何故だか落ち着いた。
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